最近、人生で初めて「散歩」の意味を調べた。
気晴らしや健康などのために、ぶらぶら歩くこと
引用:『日本国語大辞典』
歩いて気分転換をしたり、健康増進に励む。ただそれだけのことである。
だが、僕にとってはこれが案外ハードルが高い。問題となるのは「散歩にカメラを持っていきたい」という僕の欲望だ。
僕がよく使うキヤノンのミラーレス一眼は、レンズも合わせると重さが2kg弱ある。さすがにこんな重さのものを首から下げて歩いていたら、まったく気分転換にならないし、健康増進どころか身体に負担が大きい。
本格的なカメラというのは散歩とは相性の悪い存在なのかもしれない。
それでも僕は息抜きに散歩をしたいし、散歩に出るならカメラを持って歩きたい。
そんなこんなで、今日はお散歩カメラについて考えてみたい。
僕がお散歩カメラに求めること
僕がお散歩カメラに求めることは次の3つだ。
- コンパクトで軽いこと
- ファインダーがあること
- メカシャッターを搭載していること
コンパクト&軽いカメラが散歩に向けていることは言うまでもない。
そう言うと「コンパクトで軽いカメラがいいなら、スマホとかコンデジで良いじゃん」と思われるだろう。だが、僕は散歩の時はファインダーを覗いて写真を撮りたい。
僕の場合、ファインダーを覗いて写真を撮っている時とモニターを見て写真を撮っている時で、写真に対する意識が全く異なる。誤解を恐れずに言えば、ファインダーを覗いている時は「主観的な」写真を撮っている感覚であるのに対し、モニターを見ている時は「客観的な」写真を撮っている感覚だ。
散歩で見た光景を写真に留めておく作業は、僕のなかでは非常に主観的な営みであり、「ファインダーを覗いて撮るべきもの」という位置付けになっている。だから僕にとってスマホやコンデジでは不十分だ。ファインダーがついたカメラを持ち歩きたい。
最後にメカシャッターについてだが、これも僕の個人的な好みである。長年写真を撮ってきたせいか、シャッターを切る時の音や振動が僕の中での喜びに繋がっている。そのため、電子シャッターだとどうしても味気なく思えてしまう。散歩をする時は気分転換を求めているので、できれば写真を撮っている感覚をより強く感じられるカメラで写真を撮りたいというのが僕の希望である。
はたしてこのような条件を満たすカメラとレンズは存在するのだろうか?
…
……
……… あった!
それが、M型ライカ と Lomo LC-A Minitar-1 Art Lens 32mm f/2.8 の組み合わせだ。
Lomo LC-A Minitar-1 Art Lens
Lomo LC-A Minitar-1 Art Lens 32mm f2.8 は、Lomography の伝説的なトイカメラ LC-A 用に作られたレンズをライカ Mマウント用に改造したものである。
そう言うと中古のオールドレンズのように聞こえるが、今でも Lomography 社が製造・販売している新品のレンズであり、Lomograhy のオフィシャル・ウェブサイトから購入可能である。(補足:アメリカでは249.9ドルで売られていますが、日本語版のページでは在庫がありませんでした。本記事投稿時点では、ヨドバシカメラで取り扱いがあるようです。)
このレンズがいかに凄いは、M型ライカに装着した姿をご覧いただくのが早いと思う。
M11-P × Lomo LC-A Minitar-1
小さい、そして美しい…
正面から見た時の大きさは 139mm x 80mm。縦横比が違うものの、大きさはほとんど iPhone と同じように感じる。(参考:iPhone 15 Pro は146.6mm × 70.6mm)
厚さに関しては 40mm に満たない。さすがに iPhone よりは厚みはあるが、レンズ交換式のカメラとしては驚異的な薄さである。何しろレンズの全長が1cmしかないのだ。
ここまでコンパクトだと冬場であれば上着のポケットに入ってしまう。さすがにズボンのポケットに入れるのは厳しいが、それは昨今の大画面スマートフォンも同じだろう。
こんな小さな見た目のレンズであるが、開放F値は 2.8。最高級のズームレンズ並みの明るいレンズである。
しかも、フォーカスレバーはレンジファインダーの距離計に連動している。ファインダーを覗き込んで、しっかりとピントを追い込むことも可能である。
実際に散歩に出てみた
トイカメラ向けに作られたレンズなので、さすがに周辺部の破綻や減光は激しい。パープルフリンジや湾曲収差などもガンガンに出る。しかし、中央部は比較的にクリアに写っており、なによりも心が動いた瞬間にシャッターを切れる手軽さが楽しい。
このレンズの焦点距離は 32mm。他ではあまり見ない画角だが、28mm と35mm というスナップ写真で人気のある焦点距離の中間だ。お散歩カメラもってこいであることは言うまでもない。
ちなみにM型ライカでこのレンズ使うと35mm のブライトフレームが表示される。おかげで撮影範囲を大まかに把握できる。3mm分のズレはあるが、そもそもレンジファインダー機に厳密なフレーミングを求めるのは野暮だろう。
周辺部の破綻や減光があるので、写真の真ん中に被写体を置くと収まりが良い。そもそもレンジファインダー自体が、ファインダーの中央部でピントを合わせており、周辺に主題を置くような構図を不得意としている。なんだか似たもの同士な組み合わせだ。日の丸構図バンザイ。
見た目が非常にコンパクトなので、人が多いところで写真を撮っていても悪目立ちしない。
大きなレンズを使う場合と違って、写真に映る側の人に与える威圧感が小さいのも強みだろう。家族や友達と出かける時に写ルンです的な感覚で使うのも良いかもしれない。
おわりに
作例でご覧いただいたとおり、このレンズは別に写りがいいわけではない。
しかし、非常に心地の良い破綻の仕方をしてくれる。
そして何度も言うけれど、厚さが1cmしかない。
お散歩カメラにとって、これ以上の贅沢はあるだろうか。
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